先日、私にとって大きな存在だった一人のコレクターの方がお亡くなりになったと伺いました。とても悲しい知らせでしたが、その方と出会えたこと、そして彼との関係が私の画商としての明るい未来への歩みを与えていただきました。初めてお会いした時は、銀座の画廊でまだ駆け出しの画商でした。当時からとても著名なコレクターで、その知識や審美眼の高さに圧倒され敷居が高く話すことすら怖かったことを覚えています。しかし、その後、私自身も経験を積み、力をつける中でいつしか彼と絵について対等に話し合えるようになりました。その長い時間はとても貴重で、自分の成長への実感はお勧めする絵画をご購入いただいた時に感じました。画廊内のこの床の間で、作品を見てご説明や逆に解説を受けたりまた、時には値段交渉をおこないました。ご来店の際には、お勧めの絵ははじめは掛けずに、頃合いをみて奥からこの部屋へ。箱から出すその瞬間は真剣勝負の幕開け!思い出深いひと時でした。最後に、ご購入された梅原龍三郎先生「薔薇」作品もこの空間でご覧いただき、その情景が昨日のように感じられます。お客様ですが、私にとって美術の恩人であり、画商として仕事を豊かにしてくれた大切な人でした。その出会いに心から感謝し、彼との思い出のアート談義を胸にこれからも美術の世界で誠実に仕事を続けていきたいと思います。どうぞ安らかにお休みください。